研究テーマ
中学生における「増大的知能観」と学校適応との関係
- 研究の概要
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私の研究では、近年注目されている「非認知能力」の中でも、特に「増大的知能観(成長マインドセット)」に焦点を当てています。増大的知能観とは、「知能は努力によって伸ばせる」という信念であり、この考え方をもつことが、学習意欲や人間関係の形成など、生徒の学校適応に良い影響を及ぼす可能性が指摘されています。米国スタンフォード大学心理学教授の、キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)博士らの研究によると、増大的知能観をもつアメリカの中学生は,学級への帰属感が強くて安定していることや, 困難に直面しても,より回復力があることを示しています。また、増大的知能観を生徒たちにもたせることで,仲間に対する攻撃性やストレスが軽減され,学校での問題行動全体が改善されることを明らかにしています。
しかしながら,これらはいずれも海外の研究であり,特定の科目やプログラムにおいて,生徒たちがクラス編成を変更するアメリカなどの学校と,学級のメンバーが,基本的に1年を通じて固定されることが一般的な日本の公立学校とでは状況が異なります。したがって,一般的な日本の公立学校の生徒を対象にした,増大的知能観と学校・学級との適応との関係を検討することにしました。
本研究では、公立中学校の生徒を対象に、知能観、学校生活意欲、学級満足度を測定し、それらの関連性を調べました。その結果、増大的知能観を強くもつ生徒ほど、学習意欲や教師・友人との関係、学級満足度が高い傾向にあることが明らかとなりました。特に、学級内での承認感が高く、いじめや排除行為への耐性も強い傾向が見られました。
これらの結果は、教育現場において、生徒に「努力によって成長できる」という信念を育むことが、学級への適応や学習への前向きな姿勢を支える重要な要素であることを示唆しています。今後は、因果関係の解明や、増大的知能観を育成するための具体的な教育介入の検討を通じて、より実践的な教育支援につなげていくことを目指しています。
キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)博士
発表論文
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中学生の増大的知能観と,学校生活意欲・学級満足度との関連の検討
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中学生のグリット・増大的知能観と学校生活意欲・学級満足度との関連の検討
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小・中学校教員のメンタルヘルスに関する研究の動向と展望-職務特性に基づくストレッサーとワーク・エンゲイジメントの視点から
プロフィール
- 教育学部
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田上 幸雅
Yukimasa Tagami
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学位 分野・取得大学
修士(早稲田大学)
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教授分野
教育心理学、国語教育学